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「巨大構造物と景観」に関する日本景観学会アピール

日本景観学会アピール

日本景観学会は、法政大学市ヶ谷キャンパスにおいて「巨大構造物と景観」というテーマで二〇一四年度秋季シンポジウムを開催した。

巨大構造物は世に多々あるが今回議論の対象としたのは、リニア新幹線、メガソーラー、新国立競技場、そして防潮堤の四件である。

乗客や周辺住民への強力な電磁波の影響を免れ得ないリニア新幹線は、そもそもその人間輸送手段としての安全性自体に疑念を持たざるを得ないが、景観論的観点からも、長大な高架橋とその橋脚が、通過地域の大半を占める牧歌的な景観と親和性を保ち得ないと判断される。特に南アルプスの中央構造線を横断する長大なトンネルは、地殻変動による危険性がきわめて大きく、また世界遺産にも登録される可能性のあるその自然的価値を破壊することは必至である。また、工事にともなって排出される膨大な「残土」は、その処理地域の景観に決定的な影響を与えることが懸念される。

太陽光発電を含む再生可能エネルギー開発は東日本大震災の原発事故を契機に、農山村地域における新たな土地利用として急速な広がりを見せてきている。農業に適さなくなった土地でそれぞれの地域に応じた太陽光発電を行うことは、電力の地産地消ひいては地域経済の自立化にも貢献するであろう。しかし巨大なメガソーラー開発、とりわけその山間地域での事業は、森林の保水力を剥ぎ取り、土石流等の災害誘発の危険性が極めて大きく景観的にもあまりにも異様というべきである。また森林の提供する緑の自然景観に大きなダメージを与える。人命を危険にさらし、地域景観を一変するような開発は、厳に慎むべきである。

オリンピックのための新国立競技場として今回採用された建設案は、巨大なものであり、その建設のための巨額な工事費、その機能や維持管理について建築家だけでなく多様な人々から沢山の疑問が提示されている。またその建設は神宮外苑という日本の代表的な歴史的風致地区の景観を阻害し、この地の持つ過去から未来にかけて保持すべき文化価値を破壊する、と考えられる。

防潮堤は、人々の生活や財産を守るためのものであるが、同時にそれは人と海との関係性を遮断し、沿岸部の豊かな生態系と美しい海岸景観を破壊する可能性を持つ。今回の東日本大震災を契機にする防潮堤建設とそれを前提にした町づくり案は、地域の計画人口を過大に見積っているだけでなく、生命と環境の両立を考慮しないまま、一方的に「安全」のみを強調するものである。それは安心で美しい町づくりを阻害し、漁業や観光などにも大きな影響を与える。さらに後世の維持管理負担を考えない短期的視点は、被災地域に大きな負の遺産を残すことになるだろう。

これら四つの巨大構造物の建設には、それが国民生活に大きな影響を与えるにもかかわらず共通して計画策定プロセスが著しく不透明であるという点を指摘しなければならない。開発によって害を被る広範な受難者としての市民の意見は殆ど吸い上げられず、計画が進み、もう後戻りできなくなった段階で、しかも不完全な情報しか公開されない。ここに大きな制度的欠陥がある。これに関連して、本来事前にチェックすべき議会がほとんど機能していないこと、行政がその全体を見ることなく縦割りでバラバラに運営されていること、さらに住民が自らチェックする権限として与えられている住民投票制度などもあまりにもハードルが高くて事実上それに取り組むことが困難になっていること。そして国民の最後の権利である司法の場での決着も、それにかかる時間が長すぎ、多くの場合判決の頃には事業が完成し、主張の当否ではなく、事業の完成という一事によって市民の訴えが退けられるという実態を私たちは直視しなければならない。このままではこれら巨大工作物は将来に対し禍根を残すだろう。

日本景観学会は関係者に対して早急にこのような制度的欠陥の是正を求めると同時に、事業者を含めて、計画された構造物が自然の循環に逆らってないか、後世の地域・国民の共有財産となりうるかを、原点に立ち戻って徹底的に議論されることを強く求めるものである。

二〇一四年九月二十三日

日本景観学会 二〇一四年度秋季大会